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*Current research interests

農業技術や交通網の発達は、産業革命以降の爆発的な人口増加をもたらし、地球上の人口は66億人にも達しています。そして、この人口の4割もが、船舶等を利用した交通が至便で、開発が容易である海に面した平野地域に集中しています。それに伴って、沿岸海域で採取した海産物を食し、排泄物を有機肥料として利用していた閉じた循環型の社会構造の下では見られなかった問題が起きてきました。人工合成した化学肥料を用いて栽培した食料を系外から多量に移入し、生物に利用されやすい窒素の収支が地理的に大きな不均衡を起こしている現在、そのシワ寄せは、大都市の沿岸生態系に及んでいます。私は、陸から海へ、そして海の中で、物質がどのように動き、それが浅海域生態系に影響を与えているのかを、社会経済学、地理学、水文学、海洋化学、海洋生物学といった様々なアプローチを組み合わせて、調べています。.

diagram of my research topics

  1.     地下水は陸域物質を海洋に運ぶ媒体として、河川に匹敵するものですが、その流出が時空間的に不均一で、目に触れにくいことから、その評価が正確になされていません。私は、原単位法、水収支法による見積もりに加えて、地下水中に含まれる222Rnを用いた解析によって、物質のフラックスと海洋生態系への影響を調べています。
  2.     人為起源の窒素やリンの海域へのフラックスは求められても、ボックスモデルや、瞬間的な水質のモニタリング調査では、それが実際に生態系に影響を与えているのかどうかはわかりません。私は、人為起源の窒素の安定同位体比(d15N)の値が、他の窒素源の値と大きく異なることを利用し、浅海域に分布する海草藻類のd15N値から、生態系へのインパクトの時空間変化を捉えることに成功しています。
  3.     海藻が体内に硝酸などの窒素を取り込む際には同位体分別(軽い分子をわずかに先に取り込む)が起こるため、供給量が需要量を大きく上回って、藻体からの溶存物質の溶出が起こる場合には、同位体分別の影響が、藻体のd15N値に現れてきます。私は、この影響の大きさが、海藻の種類や環境条件によってどのように変化するかを実験によって調べ、現場データの解釈に応用していくことを目指しています。また、15Nで標識した窒素成分を用いて、藻体内での窒素の流れを調べる仕事も行っています。
  4.     マングローブ林、サンゴ群集、海草藻類といった大型海洋生物によって構成される生態系は、底生生物や仔魚の生育場としての機能の他に、栄養塩の緩衝作用を持つなど、生態学・物質循環学の見地からも重要な場です。私は、栄養塩や有機物、及びそれらの安定同位体比の変動を、風向・風速や海水流動などの物理データと共に連続観測することで、これらの生態系における物質循環を制御しているメカニズムを明らかにする研究を行っています。様々な環境条件に適応する海藻の種類を、培養実験やPAMを用いた光合成活性測定によって調べ、海藻を利用した沿岸域の富栄養化の修復にも取り組んでいます。
  5.     沿岸域の一次生産は、水柱(water column)での浮遊性藻類と、底生の大型藻類や堆積物表層の微細藻類によって行われていますが、それぞれの生態系への寄与は、海水の深度や富栄養化の進行具合によって大きく変わってきます。私は、13Cで標識した炭酸塩の取り込み速度や、溶存酸素の変化量から、それぞれの生態系の生産量と呼吸量を比較し、海域による違いを明らかにする試みを行っています。
  6.     堆積物の巻き上げや河川の流入によって引き起こされる沿岸域の懸濁物質の挙動は、二枚貝の摂餌や、底生植物の光獲得に大きな影響を与える要素です。しかしながら、生物相の分布が空間的にその様相を大きく変えるのに対して、懸濁物質の挙動のメカニズムについては、詳しく明らかにされていないのが現状です。私は、海底の微地形が、懸濁物質の挙動に与える影響について、化学・物理データの連続観測によって明らかにする研究を進めています。
  7.     地球温暖化に象徴される全球スケールの環境変化に加え、富栄養化などの地域スケールの環境の悪化によって、サンゴ群集の劣化、藻類の異常繁殖など、沿岸生態系の変化が急速に進んでいます。浅海域の栄養塩環境の変化が生態系に与える影響を調べるために、群集スケールでの物質循環を、炭素・窒素安定同位体比や、脂肪酸組成などから明らかにすることを試みています。

人間活動の発達、それに伴う沿岸環境の悪化は、欧米諸国や日本などの先進国で起きてきた問題で多くの先行研究が行われてきました。しかし、同じ問題が、時間のズレを伴って、アジアやアフリカの発展途上国においても発生しつつあります。しかしながら、アジアを例にとってみても、後背地の気候や水文環境、社会経済構造、政治形態、宗教などは、欧米諸国とはもちろんのこと、アジア各国間でも大きく異なるため、これらの地域の現状の把握や予測に対して、先行研究をそのままに応用できない問題があります。私は、総合地球環境学研究所で行われている「アジアの大都市の地下環境に残る人間活動の影響評価(2006−2010年度:谷口真人」のメンバーとして、アジア各国の地下水汚染と沿岸環境への影響評価について担当し研究を行っています。

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  1.     有機塩素化合物や重金属と並んで、硝酸性窒素は、人体に影響を与える地下水汚染の代表的な要素です。私は、京大生態研のメンバーと共同して、硝酸の酸素・窒素安定同位体比の解析を通して、硝酸性窒素汚染を引き起こすメカニズムについて明らかにしてきました。土地利用形態だけでなく、インフラ整備や、自然浄化ともいえる土壌中での脱窒作用の寄与が無視できないことなど、多くの新しい知見を得ることができています。現在、CFCs(クロロフルオロカーボン)やトリチウムなどのトレーサー物質を利用して、地下水年代を明らかにすることで、このメカニズムの時代変化を明らかにすることを目指しています。
  2.     大都市における工業・飲用目的の地下水過剰揚水によって、沿岸域の地下水面を大きく下がり、海水が地下水中に浸入する塩水化が大きな問題となっています。一方で、東京などの先進都市では、地下水揚水規制によって地下水面が大きく上昇し、逆に、地下構造物の上昇などの問題を引き起こしています。このような、塩水と淡水の境界面の変動は、地下水流出によって影響を受ける生態系(総称してGDE:Groundwater Dependent Ecosystem)の一つともいえる沿岸生態系にも、栄養塩や淡水供給の変動をもたらしています。我々は、Seepage meterや、比抵抗値測定などによって、海底地下水湧出(SGD:Submarine Groundwater Discharge)の定量と、時空間をもたらすメカニズムの解明を試みています。
  3.     GIS(Geographic Information System:地理情報システム)は、位置情報をもった社会経済データや物質量データを、コンピューター上で空間的に管理し、効率よく、かつ、合理的に現象を理解させてくれるシステムといえます。私は、沿岸陸域・海域の物質循環に関わる要素をGIS上に整理して、物質循環の時空間変動が、沿岸海域の生物生産に与える影響について調べ、ブラウザベースで公開していくという目標をもってデータ管理を行っています。
  4.     陸域から流入した懸濁物質や、栄養塩を利用して成長した海域の一次生産者は堆積物表層に蓄積されていくため、沿岸海域の堆積物の化学成分の鉛直分布は、過去の沿岸環境を反映している自然のレコーダーともいえます。私は、アジア各国の沿岸堆積物コアの炭素・窒素安定同位体比を解析し、過去の沿岸環境を復元する試みを行っています。

生物を構成する主要な元素である炭素・窒素・リン・シリカ等の生元素や、鉄などの微量元素の海域への供給量とそのバランスの変動は、それらを直接に利用する一次生産者、及び食物連鎖の上位に位置する生物群集の現存量と種構成に影響を与える要因です。世界の中でも最も人為的なダメージを大きく受けているといわれる東シナ海や九州沿岸域(有明海や大村湾)の窒素やリンの生元素循環について、安定同位体比や分子構造解析を用いて明らかにする活動をしています。併せて、陸域からの栄養塩負荷と海域環境・生態系の関係についてのデータを統合・整理するシステムを作成し、海域生態系の保全と水産資源の維持に向けて、適切な陸域の管理施策を提言していくことを目指しています。

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  1.      東シナ海を挟んで大陸に面している長崎沿岸域は、大陸から飛来する黄砂や人為起源の大気降下物を多く受ける地域です。大気降下物は人体に負の影響を与える一方で、貧栄養な表層海水に栄養塩や微量金属を供給し、植物プランクトンの増殖を促す正の効果をもたらすことでも知られています。エアロゾルサンプラーに捕捉された粒子のNd、Sr同位体比分析やBack Trajectory解析と合わせて、大気降下物の海洋へのフラックスを明らかにする取り組みをしています。
  2.     陸水や、堆積物からの溶出、湧昇流に含まれる栄養塩の他に、大気降下物によって供給される栄養塩は、海域の一次生産を高めることになります。海域に設置したセジメントトラップの有機物量や同位体比分析から、海域の一次生産量の季節変動を支配する要因の解明を試みています。
  3.      中国から注ぎ込む長江がもたらす栄養塩は、東シナ海の基礎生産を支える重要な要素ですが、近年、三峡ダムの建設や南水北調計画等の人間活動によって、栄養塩の供給量が大きく変動してきています。特に、表層の栄養塩が枯渇する夏季には、窒素やリンの供給源の空間分布について明らかになっていません。溶存有機物を介した栄養塩供給や、大気降下物、深層水の湧昇の効果に着目し、微量栄養塩分析、溶存態有機物分析、硝酸の窒素酸素安定同位体分析、リン酸の酸素同位体分析を通して、栄養塩の動態と起源解析を試みています。
  4.      内湾域では、堆積物表層の有機物分解によって生じた栄養塩の拡散によって、有光層下部に植物プランクトンの極大層を作ることが多く、堆積物境界層の物質の動きの把握は重要なテーマです。我々は、堆積物表層の有機物量、水温、酸素濃度をパラメータとして、堆積物からの各種栄養塩の溶出量の定量を試みています。

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